医師の“スキル”って何だろう?

どの業界においても、仕事の出来る人が持ち合わせているものがスキルです。スキルは職種や分野によって必要とされるものが違ってきます。

では、医師にとって必要なスキルとは一体何なのでしょうか。

そもそも“スキル”とは何なのか

「スキル」という言葉に、どのようなイメージをお持ちでしょうか。

英語では「Skill」と書き、主な意味には「手腕、腕前、技量、(訓練・熟練を必要とする特殊な)技能、技術」などがあります。しかし、いくつかの辞書を引いてみると、それぞれ少しずつ違うことが書かれています。

ある辞書では「物事を行うための能力や技能、資格のことを指す」としているものがあります。またある辞書では「訓練を通じて身に付けた能力で、技能とほぼ同義で使われるが、技能は“筋肉や神経系統の動きに関連する能力”をさすのに対し、スキルはそれより幅広い意味をさす」という主旨のことが書かれています。

例えば、同じ医療者である看護師は、習得した看護技術もスキルです。しかし、看護師のスキルとはそれだけではなく、同僚や他の医療従事者、患者さんとのコミュニケーションなど、対人関係という面もあります。特に新人看護師が苦手とする部分でもありますが、幅広い年齢層の患者さん、多様な職種との対人関係など、それまでには経験しなかった社会的なスキルを、身に付けて一人前です。

看護師はこうしたスキルを「ヒューマンスキル」と呼んでいます。

医師の“スキル”とは一体何を指すのか

ここではまず、医師のスキルとして「診療を行うための能力や技能、資格」という点から考えてみます。

外科の専門医資格を取得した医師であればご存知かもしれませんが、2017年からスタートした新しい専門医制度に対応すべく、日本外科学会が定めた「専門研修プログラム整備基準(20170804変更)」というものがあります。

この中には「到達目標」として、研修期間中に習得すべき知識や技能、態度などが記されています。例えば、専門知識としては、外科としての解剖生理や病態生理、腫瘍学、栄養・代謝学、感染症、免疫学、麻酔科学、周手術期管理、集中治療、救命・救急医療など、非常に幅広い知識を習得することが必要とされています。また「専門技能」として、超音波検査や各種画像検査、消化管や血管造影、内視鏡検査などに対する適応の決定および読影技能が必要ですし、周手術期管理、麻酔に関する手技、外傷の診断・治療、心肺蘇生をはじめとする12の外科的クリティカルケアなども必要です。外科専門医の持つ能力、技能、資格は、非常に幅広く、奥が深いものといえます。

では、それ以外の部分でのスキルはどうでしょうか。

前述の「専門研修プログラム整備基準(20170804変更)」にも、習得すべきスキルとして、医師としての倫理性、社会性などの項目があり、医師としての倫理や医療安全に基づき、適切な態度と習慣を身に付け、コミュニケーション能力、協調性、連携能力も必要である旨が記述されています。

最近ではこうした「技能」以外の部分でのスキルを「ノンテクニカルスキル」と呼ぶことが増えています。ノンテクニカルスキルは、看護師でいうところのヒューマンスキルとも似ている部分があり、いくら「技術」が長けていても、周りとの協調ができない、他職種との連携ができないと、チームの中で仕事をするにはふさわしくない人物、という評価になってしまいます。

医師のスキルアップを斜めから考える

医師にとっての知識や技能は、その診療科の中に身を置き、さまざまな症例に対応していくことで、自然と身に付いていくでしょう。「習うより慣れろ」という言葉がありますが、医師や看護師のような医療者は、「習いながら慣れる」方が、正確なのかもしれません。相手が患者さんであればやはり、習う前に自己流で慣れることは、リスクを伴います。しかし、人によってそのスピードは違えども、何度もくり返し経験することで、少しずつ前進していくものではないでしょうか。
では、こうした「一人で出来るか出来ないか」だけでは判断できない、ノンテクニカルスキルはどうでしょうか。

例えば、コミュニケーション力。一般的には、聴く力、説明する力、質問する力、協調性が必要だといわれています。しかし、医師の業務を鑑みると、医療者全体のピラミッドの中ではトップに立ちますし、説明する力と質問する力は、患者さんや先輩医師・同僚医師と対峙することで磨かれていきそうです。
しかし、聴く力や協調性は、少し難しいかもしれません。状況によっては、一旦、自分の立場を下げる必要があるためです。

チーム医療を考えると、協調すべき他の医療者の方が、医師よりも専門的な学びを得ていることがあります。何よりも患者さんの一番近くにいて、患者さんの考え方や思想を一番理解しているのは、他の職種かもしれません。最終決定は医師の手に委ねられたとしても、他の職種からの意見を聞きいれ、患者さんにとって一番良い方法を模索することも、医師の仕事の一つかもしれません。
かといって、必要以上に謙る必要はなく、謙虚であることを、ほんの少し意識して頂ければ良いのではないでしょうか。

謙虚という言葉には、「へりくだる。心をむなしくして、高ぶらないこと」という意味があります(新漢語林 大修館書店より)。心をむなしくというのは、寂しいとかムダという意味ではなく、「心を空っぽにする」ということです。利益だけを追い求めず、余計なことは考えず、今の一瞬だけでも心を空っぽにしてみれば、医師の立場からは見えなかった何かが、見えてくるかもしれません。

まとめ

医師に必要なスキルは、本当にたくさんあります。今回は技能やコミュニケーションスキルについて考えてみましたが、他にも、医師にとって必要なスキルは、たくさんあります。

当コラムでは今後も、医師にとって必要とされるさまざまなスキルについて、元看護師の立場から考えてみたいと思います。