【連載第3回】「急患」という言葉を世間はどう捉えるか-医師の常識・非常識

急患という言葉を聞くと、医療従事者、特に医師にとっては仕事の一環で至極当たり前のことのようにとらえるかもしれません。しかし世間一般においての「急患」は医師が感じている捉え方と異なり、捉え方の違いに温度差を感じることもあるのではないでしょうか。今回は、急患という言葉について医師と世間との温度差を考えていきます。

事例1 夜間のスピード違反

これは今から30年くらい前、とある地方都市で実際にあったお話です。
某医師は時速60Kmの幹線道路を、時速80Kmのスピードで走行していました。これは、明らかにスピード違反であり、今となってはかなりの問題となりますが、あくまでも30年以上前のお話しです。
この幹線道路は、普段からスピード違反の取り締まりをしている道路でしたが、赴任間もないこの医師はそれを知らず、道路が空いていたこともあり、ついスピードを出し過ぎてしまったようです。ふと気づくと、すぐ後ろにはパトカーが。すぐにスピードを落として左車線に寄りましたが、結局のところパトカーに止められました。
しかしこの医師は車に近寄ってきた警察官に対し「俺は●●病院の外科医だ。これから急患の手術が入ると連絡があったので、病院に行くところだ」といいました。すると、2名の警察官が敬礼しながらこの医師の車を見送ったそうです。

この話、半分は本当ですが、この医師は少し大げさに伝えています。実は、急患が救急搬送されてきた、ここまでは本当ですが、今すぐの緊急手術が必要というほどの重症度ではなく、幹線道路でスピード違反までして駆けつけるほどの状況では無かったのです。それでも、状況が分からない警察官には「一大事だ」と捉えられたようです。

事例2 GWのパトカー先導

こちらも30年近く前のお話です。
世間一般が休暇を満喫するGW期間中、関東某県の病院に勤務する都内在住の耳鼻科医は、オンコールの担当だったため、自宅でのんびりと映画をみていました。
すると突然、リビングに置いたポケベルが鳴りました。急いで病院に電話をすると「ボールがぶつかって鼻血が止まらないという患者さんが来ました」とのこと。これはすぐに勤務先の病院へ行く必要があります。

そこでこの医師が取った行動は、なぜか警視庁への打電。あろうことか、パトカーでの先導を依頼したのだそうです(もちろん、医師として(それ以前に人として)言語道断な行動ではありますので、後日、勤務先の病院長と、所属している医局の教授からの盛大なお叱りは受けています)。

しかし当時の警視庁は、パトカーを医師の自宅前に配置、そこから隣県への誘導が始まりました。結局、東京都内の自宅前から警視庁警察のパトカーに先導され、もちろん信号もノンストップで、病院へ向かいます。途中、先導するパトカーが隣県の県境の橋の上で止まりました。そして警察官が降りて来て「ここからは、(病院のある県の)県警パトカーが先導します」と言ったそうです。つまり、先導車がバトンタッチされたことになります。

こちらも、現在ではなかなか考えられない事例ではあります。実際には命に関わる急患では無かったのですが、これも「急患」という言葉を世間がどれだけ重くとらえているかがわかる事例です。

事例3 新郎が消えた?結婚披露宴

3つ目も、とある地方都市でのお話しです。
工業地帯に隣接したとある町に、300床規模の二次救急病院がありました。この病院に勤務するある医師は、かねてから交際していた看護師と結婚することになり、病院からほど近い場所にある結婚式場で挙式・披露宴を行うことになりました。この結婚式、妻も同じ医療者というだけあって、招待客も病院関係者が多くを占め、親戚以外の大多数は医療者、という式でした。
挙式が終わり、披露宴が始まって数分後、新郎の働く病院近くにある化学工場で、爆発事故が発生しました。二次救急の病院とはいえ、たくさんの被害者が出たため、二次救急で対応可能な患者さんが、たくさん運ばれてくることになりました。そのため、招待客の中で新郎と同じ病院に勤務する医師たちは、全員病院へ向かうことになりました。新郎も救急医でしたので、病院へ向かいたい。招待客の同僚医師たちは、新郎を止めたようですが、やはり状況的に自分だけがのほほんと披露宴を挙げている場合ではない、新郎はそう感じたようです。
これ、医療関係者ではない新婦だったら、激怒して破談になっても仕方ないかもしれません。人生1回きりの結婚式で、自分の親族や友人、職場関係者などがいる中で、新郎とその客が途中から退座。結婚式が台無しといっても過言ではありません。
しかし、ざわつく会場の中に残された妻は「新郎はこれから、尊い任務、人命救助に向かいます。しばらくの間、新郎は席を外しますが、戻るまでゆっくりとご歓談ください」といった挨拶を、毅然とした態度で行い、会場のムードを一瞬で変えたそうです。

この事例は、医師以外の招待客、新郎新婦の親族までもが「急患対応の方が挙式より大事」ということを受け入れているところが、「急患」という言葉の重みなのかもしれません。

まとめ

医療者として病院に勤務している以上、「急患」は日常茶飯事ではあります。しかし今回、3つの事例を集めてみましたが、これだけ見るとやはり医療者以外の人たちにとって「急患」という言葉は、とても重い意味を持つのかもしれません。「急患」という言葉を自らの行動の免罪符にしないよう、一般の人との違いを認識しておきたいですね。

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