説明上手は聞き上手。インフォームドコンセントの意義とは

今や医師の業務の中でも重要視されるインフォームドコンセント。医師としての知識はもちろんのこと話し方や患者とのかかわり方といった医師の人間性が問われる業務といっても過言ではありません。インフォームドコンセントがうまい医師は患者の話を聞くのがうまい医師でもあります。インフォームドコンセントの大切さをここでもう一度再確認していきましょう。

インフォームドコンセントの意義を再確認

医師であれば誰でも知っている、インフォームドコンセント。その意義を再確認すると「患者・家族が病状や治療について十分に理解し、また、医療職も患者・家族の意向や様々な状況や説明内容をどのように受け止めたか、どのような医療を選択するか、患者・家族、医療職、ソーシャルワーカーやケアマネジャーなど関係者と互いに情報共有し、皆で合意するプロセス」であるとされています。
そもそもインフォームドコンセントは、アメリカで生まれました。アメリカにおいて「患者の自己決定権の存在を前提として、医療過誤が証明できないときに医師の民事責任を追及する」ためにできた法理論でもあります。アメリカの場合訴訟大国であるということを背景に医師自身を守るためにインフォームドコンセントが活用されてきていました。
日本の場合、インフォームドコンセントが普及したのは、アメリカでの普及からおよそ20年後の1980年代。特に1990年代には患者の自己決定権、ICを基軸とした患者の権利運動が高まっており、医療法改正に伴い条文にも明言されるほどインフォームドコンセントは当たり前のものとなっていきました。

実はこのインフォームドコンセント、初めはどの医師も必要性を理解してはいませんでした。診療の契約を交わしている患者に対し、なぜ一治療、一処置に対して説明する必要があるのか、というのが医師側の考えでした。しかし、日本においてインフォームドコンセントを取り入れるにつれ、患者側の自己決定権を大切にし、その人自身の存在を大切にしたうえで治療を進めるという「患者の人権」があるという認識が広がり、それを大切にしていこうという思いでスタートしたともいえます。
そして、今現在、インフォームドコンセントは医療倫理の原則です。中には例外もあるし、また医師の専門的説明を患者は完全に理解できないのではないかといった問題や、インフォームドコンセントがあるとはいえどんな医療行為も容認できるとはいえないといった問題も、浮き彫りになっています。
また、インフォームドコンセントは説明と承認の2大プロセスによって成り立っているものの、説明のみを重要視している、あるいはインフォームドコンセントをとっているといえばそれで万事OKのような考え方をする医師も少なくなく、医師側もインフォームドコンセントを軽視している風潮が見て取れるという点も問題になると考えられます。

インフォームドコンセントは時間ではなく密度

インフォームドコンセントは時間ではなく密度が大切であるという方は多くいらっしゃいます。それでは、なぜ密度が重要なのかを事例をもとに考えていきます。
これだけインフォームドコンセントが定着してきた昨今においても、医療者の「説明不足」を訴える相談は依然として減りません。仮に、「この治療法についての説明がなかった」、「この合併症についての説明は聞いていない」という患者がいた場合、医師から説明の時間は取ってもらえなかったのか?と質問しても、大半は「医者からの説明は1時間以上あった」と言うでしょう。1時間もあれば、必要なことを説明していないわけがありません。このような言葉が出てくる理由として、医師からの一方通行な医療の説明が行われていることが考えられます。

これを踏まえて医師と患者それぞれのインフォームドコンセントにおける1時間について考えてみましょう。

まずは医師から。医師という職業だけでコミュニケーション能力を穿った目で見られることがあります。また早口、目を合わせることが苦手という医師も少なくありません。もともとこんなレッテルが張られ、コミュニケーションの分野においては原点からのスタートとなっているのですから、この状況のままでインフォームドコンセントを続けていけば淡々と病状の説明をするにとどまり、患者に「ただ1時間先生がしゃべりっぱなしだった」という印象を持たれても仕方ないかもしれません。
また、医者に求められるのは、患者の話をじっくりと聞いて一緒に「あなたの治療方針」を考えることです。たとえ、レベルの高い医療を提供できたとしても、患者が「良い先生」と選ぶ傾向にあるのは、こういった医師なのです。
もちろん、実際に治療を行うのは医師なのですが、「患者の話を聞く」というが、非常に重要なポイントです。患者の話を聞き、患者がなぜそのようなことを質問したのか気持ちを察し、共感の姿勢で受け止めることが、とても重要視されています。

これらを踏まえ、患者側の1時間について考えます。
ただ医師の話を聞き続け、理解できたかどうかもわからないまま終了するのでは、非常に無駄な1時間です。話を理解できていなければ「話をしてくれなかった」という認識を持ちます。患者も自分自身で「参加する」という姿勢をとること、「患者が本当に理解しているか」を医師の方から適宜確認すること、患者の気持ちを患者の言葉で語れるような質問を投げかけること、それが聞き上手な医師であり、説明上手な医師となります。

医師と患者の意識のギャップ

医師は、「医療素人の人間が1時間専門用語を聞き続けて、すべてを理解できることはかなり稀である」ということを、まず認識しましょう。この「理解できなかった」が、「聞いていない」に変わり、患者との意識のギャップが生まれていくのです。患者が理解できるような言葉で説明する、それに加えて口頭で説明したことを文書化して渡すといった対応が、このギャップを埋めるのに適しています。
また、患者は基本的に「医師の前でメモを取る」ことを、躊躇します。医師の方から「メモを取って良いですよ」と、最初に一言あれば、患者自身がメモを取りながら、分からないことを質問することもできます。
また、患者側も「自分の言葉で聞き返す」ことも必要です。「何か、分からないことはありますか?」と医師に質問されても、「分からないことが分からない」のが現実。それならば、医師からの説明を、患者が自分の言葉で繰り返すことができるよう、医師が誘導する必要もあるのではないでしょうか。
この作業がお互いの意識のギャップを埋めることに加えて、本来あるべき姿のインフォームドコンセントを成立させることができることでしょう。

まとめ

さまざまな時代の背景を受けて日本にも浸透したインフォームドコンセント。ですが、本来の形のインフォームドコンセントが失われ医師の一方通行な「説明」の時間になっていることも事実です。インフォームドコンセントは説明と承認で成り立つことを念頭に置き、患者参加型のインフォームドコンセントの場を医師が作り上げることで患者との意識のギャップを埋め、有効な時間を過ごすことができるのではないでしょうか。

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